2023.09.09
建物の外部被害に関わる資料 その 28 『 速度圧 ⑥ 』
顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。
私の屋根材開発の第一歩である耐風施工法に関する採用資料は
昭和54年頃にほぼ揃えることが出来ました。
次の取り組みを何がしたいのかと「益野浩部長」に聞かれた時です。
その頃、1年先輩に「伊藤孝司」氏がおられ、他の屋根開発の課題を多く抱えられていました。
実は拘りの「K-8シート」も伊藤氏の担当によるものでした。
即ち「耐火野地板専用の防水シート開発」です。
それをアレンジして耐風施工法用「100×50の防水シート」が出来たのです。
私は伊藤氏をこよなく尊敬し憧れていました。
伊藤氏が手掛けていた主な開発は
もちろん「新防水シートの開発」
「雪国施工法」
「新屋根材(アーバニー)施工法」
「同質役物(ハイリッジ)」
等です。
その中で「新屋根材(アーバニー)施工法」を引き継いで次の課題としたのです。
このアーバニー施工開発は昭和58年まで続きました。
そしてこれによって屋根施工に関する多くの知識を得ることが出来ました。
そのお話はこれからも時々出て来ると思いますので楽しみにしてください。
さて、「好事、魔多し」のお話です。
「耐風施工法」に必要な下地「スカイモル」と部品「補強ビス・K-8防水シート」
が出来たのですが、
この仕様アをどの様にして日本国中に広めるかが大変です。
「建築基準法」のように押し付ける訳にはいきません。
今のように、スマホやパソコンなどの無い時代です。
マスコミも台風が来た時だけ騒いで、
「喉元過ぎれば熱さ忘れる」の報道姿勢です。
東邦パーライト社からは時々、
「スカイモル」が硬い現場が出来て釘が入らない。
柔らかい「スカイモル」で釘がスポスポです。
などの情報が入れば、それを解決できる部品を支給して対応しました。
そして「生比重の測定」「釘の保持力の測定」の徹底を呼び掛けていたのですが。
ある時「坪内さん、大変なことが起こりました。」
と一報が入ったのです。
「スカイモル」の釘保持力が無い現場で、
屋根が飛散したと言うのです。
以前の「竜巻の項」でもお話しましたが、
強風でコロニアルが飛散する場合は
「コロニアルの設計強度」以上の風が吹くとコロニアル釘位置で飛散し、
釘から上の肩の部分は
アスファルトルーフィングと共に野地(板)部に残ります。
釘の保持力が無い時には
釘とアスファルトルーフィングと共に屋根材が全て飛散します。
そして野地板等、野地部分のみの下地が残ります。
K市に建てられた公営住宅5階建てです。
東邦パーライトの社員と共に現地に駆け付けます。
少し遠くに見える2棟の屋根は、
「スカイモル」の素屋根そのものの「真っ白」です。
他の棟の屋根は全て屋根材の色「茶色」です。
しかもこの団地30数棟全て同じ仕様なのです。
K市の公営住宅(グーグルストリートマップ)
この団地に台風が来たのは9月です。
そして外装仕様は全て仕上がり、
仮設足場は全て撤去されています。
引き渡しは半年先の来年3月と説明されたのです。
幸い屋根飛散による二次被害も無く、
補強補修の仕事を行えば良い事となりました。
この頃は、高さに対する仕様認識が公私共に甘く、
現場の監督さんでも
高層建物の屋根で
速度圧(q =60.√h)で高さ基準を考える
と言う考え方は皆無でした。
大阪難波の会社に帰社すると直ぐに
東邦パーライトの社長に電話をして、
「1000万円用意しておいてください。」
「後は私が何とかします。」
と伝えたのです。
会社には「全棟の屋根釘保持力検査を行い、補強施工を行う」と報告書を作成し、
今後の対応の方法を検討したのです。
そして、5階建て、30数棟の屋根に上って
1日1~2棟ずつ、
1棟の屋根で10数箇所、
部分的に屋根材を撤去して「スカイモル」の保持力を測定したのです。
さて仮設足場の無い5階建ての屋根にどのようにして上がり
保持力測定作業をしたと思われますか。
下記写真の5階部分のベランダに赤色破線が、
出窓の庇に向かって掛かっています。
ここに梯子を掛けて庇に上がります。
その庇屋根から赤色矢印方向に屋根に這い上がるのです。
この箇所から毎日屋根工具、保持力試験機と補修屋根材料を手上げして
30数棟の屋根「スカイモル」の保持力試験を行ったのです。
このような危険な行為ですので、
現場の監督さんや会社の上司も現場に来て、
地上から屋根を見上げるだけです。
「スカイモルの保持力調査中」またまた事件が勃発しました。
2023.06.17建物の外部被害に関わる資料 その 20 『 台風 ⑤ 』
でもお話しましたように、
その時に台風が来たのです。
40年以上前のお話ですが、
台風が接近している時に5階建ての中層住宅建設の現場で、
ある事情で、屋根にネットを被せる仕事をした事があります。
夜8時~10時頃、街灯も仮設足場も無い屋根の上で
5~6人ほどの職人にヘルメットを被らせての作業です。
命綱を腰に着けて棟を歩かせて、
軒先やケラバにネットを固定しながらの仕事です。
かなりの風雨の中の作業でした。
今思えば随分と無茶な仕事でした。

K市の公営住宅(グーグルストリートマップ)
このようにして「スカイモル」屋根下地と
「コロニアル」台風施工法は日本国中に広まって行きました。
この間多くの施工問題が勃発したのは言うまでもありません。
印象に残っている現場のお話をもう少ししてみましょう。
40年ほど前は公的年金「厚生年金」の建物が全国に多く建てられました。
今では人気のある施設は名前を変えて存続されています。
中部地方にある大都市の会館のお話です。
大手ゼネコン K社の10階建ての傾斜屋根に
補強無しで屋根を施工される情報が入り、現場を訪ねました。
補強施工をするように説得しに行きましたが、
副所長さんに補強ビスと防水シートをメーカーとして提供するとお話ししても
「そんな予算は取っていない。」と「けんもほろろ」の対応です。
「台風が来て屋根材が飛散して、怪我人が出ても責任は持ちませんよ。」と言い
同行した営業課長に「こんな阿保な会社知らんわ。」
「課長帰りましょう。」と呼び掛けて現場事務所から100m程帰っていると
現場事務所より
「おーい、待ってくれ、所長が話を聞くと言っていまーす。」
と呼び返されて、「補強ビスセットと防水シートセット」を無償提供して採用されました。
また、渥美半島の中程にあるT町のお話です。
今ではT市となっています。
昭和40年頃に町の中ほどにある海抜250mの山頂に
M社が展望台付のレストランを造り、屋根をアスファルトシングルで施工されていたのです。
毎年のようにアスファルトシングル屋根が風で飛ばされ、補修するのにお金がかかり、
固定資産税も払えないので、建物全体を町に寄付されたようです。
そこで、屋根が飛散しない施工は無いかと問い合わせがあり、
町役場に呼ばれたのです。
丁度、担当者の建築係長が「風邪」で寝込んで休んでおられました。
建築課長に施工法を説明すると、
「屋根材の上に補強ビスが見えるのが気に入らない。」と
渋い顔をされて納得されません。
施工すると気になりませんと説明したのですが。
諦めて、帰路に就いていると、
建築係長が自転車で追っかけて来て、
「私が説得するので是非補強施工をお願いします。」
町役場から係長に、メーカーが帰ってしまったと連絡が入り
慌てて係長は熱を押して家から出て来たらしいのです。
その後、私が直接施工指導をして無事解決したのです。
反対していた建築課長も
「出来上がったら強風ビスもあまり気にならないな」と納得されました。
今では風被害に関係なく新しい建物に建て替えられて
観光スポットになっているようです。
