顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。
1972年に「カラーベスト製造会社」に入社して、4月~7月まで研修で東京に居ました。
(因みに私が東京で暮らしたのはこの間の4ケ月だけです。)
7月半ばに大阪への転勤命令が出たと同時に、
故郷の川が氾濫し、実家が流出しました。( 島根県江津市江川河口 )
又、9月には台風20号が和歌山県に上陸して、三重県・岐阜県西部を経て富山湾から日本海へと抜けました。
この台風被害で、ある大学教授自宅屋根の、
プレハブメーカーのフラット屋根が飛散して、固定方法が問題になりました。
一方、我々大阪にいた営業・技術員は名古屋支店の
屋根被害の補修応援に駆け付けました。
中部地区では知多半島での被害が多く
連日補修用屋根材を積んで、2週間ほど補修に廻りました。
私が入社して、「台風被害調査 ? 」(補修)
に遭遇したのはこの時が初めてです。
ついでにもう少し脱線します。
屋根材の「耐風」と「防水」についての実験のお話です。
以前にもお話しましたが「カラーベスト屋根」は
米国「JM社」の特許製造製品です。
米国では当時、どのような「耐風・防水試験」をしていたのかが
話題になり、合わせて試験方法をどうするかの検討をしました。
日本でのカラーベスト普及のレジェンド「益野 浩」部長が
米国からJM社の技術資料の中の
8ミリ映写映画を見せてくれました。
セスナ機の3枚プロペ ラ
それは
切妻屋根の施工架台に屋根材を施工して、正面から風を当てる方法でした。
風の発生装置は飛行機のプロペラを改良したものでした。
雨を発生させるのはただホースで水を掛けているだけです。
そこで私達は、強風を発生させる装置は無いかと思案した結果、
これだと叫んで「京都の東映太秦映画村」に出かけて行きました。
幸いなことに東映太秦映画村には
飛行機セスナのプロペラを改良した風発生装置が有りました。
この装置には乱流発生用のレバーが有り、
このレバーを引くと 13m/s → 18m/s (実はこの数字は曖昧です)
と風速が変化するのです。
乱流を発生させる時はセスナプロペラの羽根が絞られて、
乱流が発生するのです。
50年も前の記憶ですので定かではありませんが
数値はこの位だったと思われます。
乱流は音に比較して、風の速度はあまり上がらなかった記憶が有ります。
当時、映画撮影ではもうこの装置は使用されていなかったようです。
従って使用料も大変お安くして頂いた記憶があります。
この大型送風機をトラックに積み込み、
カラーベスト製造工場の滋賀で実験したのです。
以前、お話しました拘りの先輩「伊藤孝司」氏の
降雨装置の拘りで、雨をどの様に降らすかと
随分時間を割いた良い記憶もあります。
暫らくして、他の試験装置を模索していた頃、
系列会社のKハウスに固定された最大風速60m/s出力可能な
大型送風装置のあることが分かり借用することが出来ました。
この装置を使用して1975~1985年の間に
「化粧スレート系」「厚型セメント系」屋根材の
「耐風性能・防水性能」基礎試験を行いました。
ハウスの送風試験機イメージ図
この装置が現在の他機関の大型送風試験機と異なる箇所は
①開口形状が円形ではなく 2000mm × 300mm の長方形であること。
②送風出口に乱流発生装置が付いていることです。
(この乱流を発生する装置は他の試験を行う時に、偶然に発見したのです。)
この乱流発生装置で乱流を発生させると
不思議な事に整流より5~10m/s程度風速が低くても
屋根材が可動・飛散するのです。
正に「風の息」「突風(ガスト)」に近しい風ではないかと思われます。
私はこの「乱流」の飛散メカニズムをもっと研究したかったのですが。
ただ機械出口の最大風速は調子が良い時60m/sで
常時は56~58m/sの風速だったような記憶です。
この装置を使用しての防水試験も工夫が必要でした。
上記図のような方法で雨水を落下させるとほとんどが吹き飛んでしまいます。
風速が速すぎると雨水は霧状に飛散し
ほぼ水平に屋根面に当たるので難しい処でした。
40~45年も前の事なので、数字には記憶違いがあるかも知れません。
10年も後に分かった事ですが、
1985年頃、建設省建築研究所では「相似則」の理論を採用しながら
ホンマモンの「風洞試験装置」で和瓦飛散の試験をされていたようです。
その頃建設省建築研究所,第三研究部耐風研究室主任研究員であった
岡田恒氏が「強風による屋根瓦の飛散に関する風洞実験」の論文を書かれています。
日本風工学会誌第35号受理:昭和62年11月20日,討論期限:昭和63年7月31日)の資料ですが、
瓦飛散と風速の関係が良く分かり、相似則理論に納得させられる資料と思われます。
非常に興味をそそられる資料です。
これらの資料を参考にして
風の方向と被害箇所を建設省建築研究所で、風洞試験をした結果、
下図のような箇所で被害が顕著であると認識され、各種資料に採用されています。
各種屋根被害の特徴(田村幸雄・東京工芸大学名誉教授講演資料より)
1. 切妻屋根の風が吹く方向と被害箇所
1) 横(ケラバ)方向からの風
①一般的には風の直接当たる2箇所のケラバ(瓦)・
金属役物等(青色図示)の被害が多いようです。
②経年劣化により、水平棟部の破損もあります。
③和瓦屋根の場合、施工法の関係で風の当たる方向から
右側の一般部(赤色破線楕円部)の瓦が持ち上がり、
損傷する場合もあります。
このような被害写真が時々インターネットに掲載されています。
建物のケラバ側から直角な風の被害箇所
※ 和瓦屋根の場合、施工法の関係で風の当たる方向から
右側の一般部(赤色破線楕円部)の瓦が持ち上がり、
損傷する場合もあります。
施工法の関係とは、和瓦は屋根面の左側軒先部より施工しますので、
下図の緑色矢印方向からの風には瓦が持ち上がる傾向にある事です。
瓦屋根標準設計施工ガイドライン平部の瓦施工
2) 斜め(ケラバ角)方向からの風
①一般的には風の直接当たる2箇所のケラバ・軒先(瓦)
金属役物等の被害が多いようです。
②経年劣化により、水平棟部の破損もあります。
③風がケラバ角に当たり発生する乱流が、ケラバ角より少し離れた
一般部(赤色破線楕円部)の屋根材に損傷を与える場合もあります。
建物の軒先゙側から直角な風の被害箇所
3) 正面(軒先)方向からの風
①一般的には風の直接当たる水平棟・軒先(瓦)等の被害が多いようです。
②経年劣化と施工不良による、水平棟部の破損が特に多いようです。
(屋根材の種類により、被害内容は異なります)
③風が軒先に当たり発生する乱流が、軒先より少し離れた
一般部(赤色破線楕円部)の屋根材に損傷を与える場合もあります。