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2024.09.14

建物の外部被害に関わる資料 その 55 『 台風21号 ㉕ 』

顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。

前回のお話の続きです。
この試験場でも事件が2つ発生したのです。
一つ目は部下のN君が
台風の来る前日、真剣な顔して言うのです。
「課長、僕たちが乗った飛行機が、
台風で落ちたらどうするんですか。」
と言うので
「台風で飛行機が落ちるかどうかはパイロットが決めるんだ。」
「君は飛行機が飛んだら、乗ったら良いんだ。」
と答えたのです。
翌日、伊丹に行ったN君が
「課長、飛行機が飛びません。」
「そうか、直ぐに会社に帰って来い。」
のようなやり取りです。

二つ目は私の想定外の事でした。
台風時の測定中の事です。
「課長、測定中に雨が降って来て、圧力センサーの中に水が入り測定できません。」
それから、半年掛かりで、事件を回避する装置を考え製作して
雨水 → 圧力測定管 → 水を検知 → 測定停止装置 → コンプレッサー作動
 → 空気圧により雨水排出 → 再稼働
の一連の装置を考えて設置しました。
当初は銅管の中には雨水は入らないとの情報があり、
準備をしていなかったのです。
しかし、現実には入水したのです。
そして最大瞬間風速38m/sくらいの風を捉えてくれたのです。

そして収集したデーターを抱えて建設省建築研究所に指導を受けに出かけました。
その時、岡田恒氏にお会いして
「米国の何処かの大学で同じような装置を作ったという論文を読んだことがある。」

とのお話を聞き、やはりそうなのかと納得した記憶があります。
岡田恒氏は建設省建築研究所
「相似則」の理論を採用しながら
建築研究所の「風洞試験装置」で
和瓦飛散の試験をされていたようです。
建物も和瓦も1/20で製作し、
瓦は真鍮製で重さも1/20にしての試験だったようです。
その頃
建設省建築研究所,第三研究部耐風研究室主任研究員であった
岡田恒氏は「強風による屋根瓦の飛散に関する風洞実験」の論文を書かれています。
日本風工学会誌第35号受理:昭和621120,討論期限:昭和63731)の資料ですが、
瓦飛散と風速の関係が良く分かり、相似則理論に納得させられる資料と思われます。
私はこれらの内容を試験後10年も経て知ったのです。

これらの資料を参考にして
風の方向と被害箇所は建設省建築研究所で、
風洞試験を使用されての結果、
下図のような箇所で被害が顕著であると認識され、
各種資料に採用されています。
先の切妻屋根の飛散箇所に続き
寄棟屋根でも被害箇所が示されています。
各種屋根被害の特徴(田村幸雄・東京工芸大学名誉教授講演資料より)

寄棟屋根の風が吹く方向と被害箇所
 1) 横(軒先)方向からの風
  ①一般的には風の直接当たる2箇所の軒先・隅棟部()
    金属役物等の被害が多いです。
  ②経年劣化により、水平棟部の破損もあります。
  ③瓦屋根の場合、施工法の関係から風の当たる方向から
   右側の一般部(赤色破線楕円部)の瓦が持ち上がり、
   損傷する場合もあります。

  建物のケラバ側から直角な風の被害箇所


2) 斜め(剣先)方向からの風
 ①一般的には風の直接当たる3箇所の軒先2箇所・隅棟部の()
   金属役物等の被害が多いです。
 ②経年劣化により、水平棟部の破損もあります。
 ③風がけらば角に当たり発生する乱流が、ケラバ角より少し離れた
一般部(赤色破線楕円部)の屋根材に損傷を与える場合もあります。

   建物のケラバ隅側から直角な風の被害箇所

3) 正面(軒先)方向からの風
 ①一般的には風の直接当たる2箇所の水平棟・軒先()
   金属役物等の被害が多いです。
 ②経年劣化と施工不良による、水平棟部の破損が特に多いです。
   (屋根材の種類により、被害内容は異なる)
 ③経年劣化により、水平棟部の破損もあります。
 ④風が軒先に当たり発生する乱流が、軒先より少し離れた
一般部(赤色破線楕円部)の屋根材に損傷を与える場合もあります。


   建物の軒先側から直角な風の被害箇所


3. 瓦屋根(軒先部、ケラバ部、一般部、水平棟部、隅棟部の被害)
1)
 軒先の被害
①㋐の写真は寄棟屋根の平板系陶器瓦の軒先被害です。
②平板系陶器瓦は桟施工の釘留めです。
③この写真では隅棟の被害は見当りません。
④正面からの強風による被害と考えられます。
⑤損傷した瓦は小さく砕かれた物もあります。
⑥屋根面には桟留め用の胴縁のようなものも見受けられます。

    台風21号被害写真(軒先部)より

⑦㋑の写真は23階建て住宅のベランダにポリカボネード屋根の付いた軒先部で
  波形セメント瓦の被害です。
②軒先の持ち上がりも無く、破損の形から推測すると
  飛来物による破損と考えられます。
③写真を良く観察すると、ポリカボネート屋根の
  左側と右端の材料が破損して穴が開いています。
④損傷部は軒先部(4箇所)の先端から20cm程度の箇所です。
  飛来物はホリカボネード屋根にバウンドして当たった可能性があります。