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2024.09.28

建物の外部被害に関わる資料 その 57  『台風21 ㉗ 』

顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。

前回の続きです。
瓦屋根隅棟被害です。
⑪写真㋞は熨斗瓦の無い隅棟の施工です。
⑫隅棟丸瓦の固定受けには防腐処理されていない
  木製の受桟が使用されています。
⑬木材が黒く結露して腐朽しています。
⑭このように受桟を容易に面戸材で包む納まりは
  結露を誘発する恐れがあるので、工夫が必要です。
1 このような現象は化粧スレート板や金属屋根材の棟部でも発生します。
2 化粧スレート板の項で説明します。
⑮この棟部被害の風は右側から左側に吹いたと思われます。

    ㋞台風21号被害写真(瓦・隅棟部)より

⑯写真㋟も熨斗瓦を使用しない隅棟部施工です。
⑰写真㋞とよく似た納まりで、受け桟が結露して腐朽しています。
  固定釘の保持力が低下し、丸瓦が飛散しています。
⑱本瓦はS瓦なので谷が深く、棟瓦との取り合いの
  面戸部空間が大きいのが特徴です。
⑲従ってこの空間を何か塞ぐ必要があります。
⑳現代では乾式面戸で対応されています。
㉑従来現場では漆喰・南蛮漆喰(商品名:シルガード等)が採用され、
  現場によりモルタルで面戸を施工されているものもあります。
㉒何れにせよ、湿式材で木材を覆うので不具合が生じます。
㉓この施工法は反乾式施工なので、俘虜の不具合と思われます。
㉔昭和50年代のセメント洋瓦が出回った時期から
  この様な施工が増加してきました。
㉕丸瓦が左側に落ちていますので、
  風は右側から左側に吹いたと思われます。


㋟台風21号被害写真(瓦・隅棟部)より

2. 化粧スレート板(軒先、ケラバ、一般部、水平棟、隅棟の被害)
1)
 軒先部の被害
①写真㋠は化粧スレートの高所部採用の飛散です。
②東大阪市内8階建て建物の塔屋部に使用されています。
③メーカー指定の高所仕様施工はなされていないようです。
④この現場のように屋根固定釘(ビス)の保持力が無く
⑤ビスが抜けた場合は、野地板表面が見えることになります。
  (屋根固定用の釘やビスが野地に刺さって残っていれば、
   防水用のシートも飛散せずに残っています。)
1 この現象には屋根材、固定釘、防水シート飛散と野地との
    飛散メカニズムが潜んでいるような気がします。


 ㋠台風21号被害写真(化粧スレート・軒先部)より


⑥軒先部が飛散することで、
  棟に向かってほとんどの固定ビスが抜けています。
⑦耐火野地板への保持力の無さが問題です。
⑧一般的によく飛散する部位、棟部の笠木は残っています。
⑨この現場は何度か飛散して、補修した跡がみられます。
⑩隣の建物も同様の仕様なので同じ様に飛散しています。
⑪屋根野地下地もメーカー指定以外の耐火野地板が採用されています。
⑫屋根材固定のビスが抜けて飛散しています。
⑬両棟共、野地板表面が見えています。


㋡台風21号被害写真(化粧スレート・軒先部)より


2)ケラバの被害
①写真㋢は化粧スレートのケラバ部の被害です。
②この写真はケラバの金属役物が強風で捲れています。
③更にケラバ役物が3重になっています。
④おそらく重ね葺き施工か、標準施工ではない施工が
  行われた可能性があります。
⑤メーカーの施工説明書にはケラバ金属役物の下に
  「のぼり木」を使用しています。
➅そして「のぼり木」に金属役物の固定釘を
  横から打ち込む施工になっています。
⑦この現場ではそのような施工をされていないようです。
 (金属役物がしっかりと固定されていないのです。)


㋢台風21号被害写真(化粧スレート・ケラバ部)より

⑧写真㋣も化粧スレートのケラバ部の被害です。
⑨更に写真㋣の赤色四角部を拡大したものが写真㋤です。


㋣台風21号被害写真(化粧スレート・ケラバ部)より


⑩拡大写真からは飛散し始めの化粧スレートの釘が
1本打たれていないのが確認されます。(青色矢印・青色丸印)
⑪他にも釘が打たれていない箇所が見受けられます。
⑫ケラバ役物は爪付きのメーカー標準役物形状です。
⑬化粧スレートのケラバ端部がケラバ役物の爪
  折り曲げ箇所)にひかかっていますので、
⑭飛散被害を最小限抑えられたケースです。
⑮ケラバの化粧スレートの小さな端材は接着剤で固定され残っています。
⑯因みにこの化粧スレートの材料は松下電工製の『フルベスト20』です。
⑰リフォーム時に再塗装されています。
2 この現場職人は化粧スレートを固定する釘4本の内
   左から2番目の中釘施工を打たない癖があります。
3 私の記憶にある40年以上前の送風実験(乱流)ですが、
    化粧スレートの釘が4本打たれている場合は60m/s
3本では52m/s2本では43m/sで飛散結果のような記憶があります。
4 又、九州で台風被害現場調査では4本釘の内
   中釘1本で固定していた現場もありました。

 
㋤台風21号被害写真(化粧スレート・ケラバ部)より

3) 一般部の被害
①写真㋥は化粧スレートの一般部の被害です。
6階建て建物の一般部から棟に向かって飛散しています。
③この写真の赤色四角部を拡大して見ます。
④飛散始まり部の化粧スレートには何かが当たった瑕が付いています。
⑤化粧スレートの固定ビスはほぼ残っています。
➅最初に何かが当たっていなければ、完全に材料破壊の現場です。
⑦そして一般部には設計基準以上の外圧が掛かった事になります。
⑧このように固定用の釘(ビス)が残れば、
  防水紙も残るので、すぐには雨漏りすることはありません。


㋥台風21号被害写真(化粧スレート・一般部)より


⑨赤色楕円部が何かの衝撃物跡です。
⑩何かが飛散して来て、化粧スレートの隙間に入り込んだ可能性があります。
⑪又、オレンジ色△印箇所には固定ビスがありません。
⑫このように化粧スレート板は1枚飛散すると
  棟方向に捲れあがる傾向にあります。
隠れた箇所の形状により捲れあがる方向が決まります。
⑭更にスレート固定ビスの本数が少ない場合はこの傾向が強まります。
⑮この現場もメーカー指定の強風施工は成されていないようです。
5 スレート固定位置のビス有無を外ビス位置を赤線で、
   内ビス位置をオレンジ線で探ってみました。
6 オレンジ△のにはビスがありませんでした。

㋦台風21号被害写真(化粧スレート・一般部)より


化粧スレートは日本国内で製造されて65年です。
瓦や他の屋根材に比較して、日本での歴史は少ないのです。
しかし、科学に基づいて設計されています。
新しい内容、施工法を習得するために施工学校も作られています。
又、容易に施工出来るためメーカーの基準を無視して施工する人もいます。
これらの事は台風被害を誘発する原因にもなっています。
飛散原因を追究する事は「台風被害を最小に防ぐ問題定義」をするのに役立ちます。

ありがとうございます。