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2024.11.02

建物の外部被害に関わる資料 その 60  『台風21号 ㉚ 』

顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。

前回の続き、金属屋根の被害です。

3)
 軒先の被害
①写真㋸は金属屋根材の軒先部の被害です。
②野地板は腐朽しボロボロになっています。
③軒先の施工が通常の金属屋根材に比較して複雑な感じです。
④重ね葺き施工をして納まりが悪かったのか、木下地が結露していたのか、
  腐朽して飛散した可能性が考えられます。

 ㋸台風21号被害写真(金属屋根材・軒先部)より

4)ケラバ部の被害
①写真㋹は金属屋根材のケラバ部の被害です。
②野地は小幅板で全面結露しています。
③防水にはアスファルトフェルトが使用されています。
④屋根下地に防水材としてアスファルトフェルトを使用しても防水には余り効果はありません。
⑤透湿抵抗が高いので結露には効果を発揮します。
⑥金属屋根材の接合部に芯木らしき木材が見受けられますので、
  瓦棒の芯木あり施工と考えられます。


㋹台風21号被害写真(金属屋根・ケラバ部)より


⑦更に、捲れている青色箇所を拡大します。
⑧芯木を固定している位置で結露している跡が確認されます。
⑨通常、芯木は野地板を通して垂木位置で固定されています。
⑩芯木が屋根材に付いているので、結露して錆びた釘の
  保持力不足(釘が錆細った)で飛散したものと考えられます。
⑪写真㋺の赤色矢印位置の木材が黒く腐朽しています。
⑫固定釘が残っていないので、下地に刺さっている部分から折れているようです。
⑬瓦棒屋根の保持力劣化の原因は2つ考えられます。
⑭一つは鉄釘の錆びによる劣化です。
⑮もう一つは木材の腐朽劣化です。
⑯どちらも金属屋根の固定力を弱くさせる原因となるものです。


㋺台風21号被害写真(金属屋根・ケラバ部・拡大)より


⑰写真㋻も金属屋根材のケラバ部被害です。
⑱ケラバ部分が野地板から捲れています。
⑲野地の部分が少し良く分からない写真です。
⑳先の写真はバラ板の上にアスファルトフェルトが敷いてありました。
㉑この写真では、アスファルトの下に紙のようなパーチクルボードのようなものが見えます。
㉒残っている野地板がパーチクルボードなら木材繊維を固めたもので、
  昭和50年頃に多く使用され、結露し易く釘の保持力低下が著しい材料でした。
㉓そのボードが屋根材の芯木の箇所で真直ぐ折れ飛散しています。
㉔そして金属屋根材の裏にはアスファルトルーフィングの熔着した跡が確認されます。

㋻台風21号被害写真(金属屋根・ケラバ部)より


ケラバ部被害の基本は端部にある唐草の固定法にあると考えられます。
㉕下記図は金属屋根メーカーのケラバ納まりです。
㉖以前にもお話しましたが、この納まりの重要な箇所をほとんどの職人さんが行いません。
  それは化粧スレート板のケラバ部納まりの固定と同じです。
㉗ケラバ部の役物固定釘の手抜きと同じで、のぼり木に釘止めしないのです。
㉘重要なのは下Ⓐ図の中に赤線で示した唐草補助材です。
㉙この補助材無しで緑色唐草を取付け、本体材を施工しているのです。
㉚従って、左下から吹き上げる風に弱く持ち上げられてしまうのです。
㉚前項2枚の写真ケラバ部被害もこのような納まりであったと思われます。

   Ⓐ金属屋根メーカーのケラバ部納まり


5) 一般部の被害
写真Ⓑは金属屋根材の一般部の被害です。
⓶この写真は鉄骨母屋がむき出しになったほどの被害です。
⓷屋根材と屋根材の接合部がシッカリと嵌合されているので
  折版金属屋根
が軒先部より飛散したと思われます。
③残っている構造部材から考えるとH鋼梁上の
  タイトフレーム受けC型鋼に固定されている折版金属屋根と
  タイトフレームが一緒に飛散しているようにも考えられます。
④金属屋根材の固定方法の不備と考えられます。
⑤写真オレンジの茶色の箇所がタイトフレーム受けC型鋼で、
  タイトフレームは屋根材と共に水色 
→ の方向に飛散しています。
⑥飛散した屋根材の一部は白っぽく上側に見えます。
⑦おそらくこの建物屋根の軒先部です。
⑧屋根材は赤色矢印の茶色位置タイトフレームC型鋼の位置で
  ひっくり返って折れています。
⑨こんな単純な構造であれば、建築を少しかじった人であれば
  構造計算上風圧力と屋根材の被害関係は
  簡単に計算できるかも知れませんね。
⑩因みに私は構造屋ではありませんので。

Ⓑ台風21号被害写真(金属屋根・一般部)より


面白そうなので、この問題を少し考えてみようと調べて見ると適切な資料がありました。
一般社団法人日本金属屋根協会と一般社団法人日本鋼構造協会が共同で、鋼板製屋根・外壁の設計・施工並びに維持保全や改修に関する手引き書『鋼板製屋根・外壁の設計・施工・保全の手引きMSRW2014』(以下、MSRW2014)を作成し、独立行政法人建築研究所の監修を受けて20142月に発行していました。
(殆ど本文を参考にして考え方を整理します。)



(鋼板製屋根・外壁の設計・施工・保全の手引き)より


「 折板屋根の軒出長さにおける耐力比較試験 
1. 鋼板製外装材に要求される性能

①耐風圧性能が不足すると強風時に飛散等の損傷が発生します。
⓶当該建築物の機能損失だけでなく周辺建築物等へも
  2次被害を発生させる可能性があります。

としてあり一番に被害発生の重要性を表記してあります。
そして、強風被害を軽減するには

鋼板製外装材の耐風圧性評価を基にした構造計算や

適切な施工を行うことが重要と指摘しています。
更に設計・施工を行うにあたり強風時には、
鋼板製外装材各部に発生しうる破壊状態を事前に知って、
特別に関心をもっておくことは被害軽減に有効であるのです。
と指導されています。
そこで、この「
MSRW2014」の中を見ると下記写真があります。
正に台風21号の報道にあった写真と同じ状態の被害写真ではありませんか。
Ⓑの写真では母屋H鋼やタイトフレーム受けC型鋼は赤く錆びています。
この写真では構造材は塗装されて錆びは少ないようです。
従ってこの写真を参考に強風強度試験が行われたようです。


       MSRW2014より

MSRW2014」書の中に試験を行った参考図があり、下記は軒先の納まり図です。
タイトフレーム・タイトフレーム受け・タイトフレーム受け梁の位置が明記してあります。
そして軒の出は折版の山高さから規定されています。

        MSRW2014より

新しく出される製品はそれなりに、性能試験をされています。
どの製品も「本体」そのものの試験は行いますが、
周辺部や他部位との取り合いの細部試験がおろそかになります。
今少し金属折版屋根を探ってみましょう。

ありがとうございます。