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2025.07.01

建物の外部被害に関わる資料 その 69  『台風21 号 ㊴ 』

顧問の坪内です。
いつも池本工務店の事業にご支援頂いてありがとうございます。

 前回はステンレス製の屋根の話から「うなぎの蒸籠蒸し」まで話が飛びました。
 ついでに掴みどころの無い話として金属の「スプリングバック」の話を勉強してみましょう。

スプリングバック(高橋金属㈱様のHPが分かり易いので青色字箇所を参考にしています)
  金属を曲げ加工する場合には、下図のように、
  中立軸に対して曲げの内側には圧縮応力が加わり、
  曲げの外側には引張応力が作用します。
  中立軸は必ずしも板厚の中央には無くて、
  板厚が厚くなるにしたがって内側に移動します。
  従って、曲げ加工時に曲げ部分の板厚は減少しています。
  曲げ加工時の外力(荷重)が外れることにより、
  圧縮・引張応力の反発によって曲げの角度が戻り開きます。

  これが曲げ加工時のスプリングバックと呼ばれる現象です。
  実際にプレス加工を行う上では、このスプリングバック量を
  見込んで金型の製作を行うこととなります。
  また、製品の加工工程に配慮する内容として、
  材料の圧延方向の検討があります。
  曲げ加工を行う上で圧延方向に対して
  平行に曲げる場合と直角に曲げる場合では、
  平行に曲げた方が曲げやすい傾向にあります。
  しかし、高張力鋼板材などの高強度材の場合には
  曲げの部分に微細クラックが入り、
  割れが発生する事もあります。
  こんなに微妙な影響があるようなのに
  金属屋根の「吊り子」箇所の性能は
スプリングバックを考慮して
  どれだけの安全性を確保してあるのでしょうか。


                   高橋金属㈱様のHPより


・ステンレス鋼のように降伏強度と弾性率が高い材料は、
スプリングバックが大きくなる傾向があるようです。

・ステンレス鋼の材料が曲げ中に弾性エネルギーをより多く蓄え、
曲げ力が取り除かれた後の弾性回復が
大きくなるためとされています。

・スプリングバックは、曲げ力を取り除いた後、
材料の弾性回復により金属が部分的に元の形状に戻る現象です。

・この現象は、曲げ加工中に金属が塑性変形と
弾性変形の両方を起こすために起こります。
・塑性変形が永久的であるのに対し、弾性変形は一時的で可逆的なのです。
・曲げ力が取り除かれると、弾性変形によって金属は元の形状
 
「スプリングバック」するのです。

         高橋金属㈱様のHPより




金属屋根加工時の「スプリングバック」は台風性能に
   何かの影響を与えているような気もします。

更にステンレスの材質も「吊り子金具」の留め付け箇所の加工性状にも
   別の影響はないのかと心配する処です。


下記物件は
平成25 9 2 日に発生した竜巻による埼玉県越谷市、北葛飾郡松伏町及び

千葉県野田市での建築物等被害(速報)国土交通省国土技術政策総合研究所 独立行政法人建築研究所』で発行された報告書の一部です。
「吊り子金具」と金属屋根材が強風でどの様に外れるのかの参考写真を探していましたら、埼玉県越谷市における公共建築物等の被害の一部にありましたので紹介します。
建物の屋根部分の被害の屋根鉄骨下地に取り付けられた「吊り子金具」の被害です。
金属屋根の瓦棒のカシメ箇所が見事に外れています。





上記写真の赤色四角箇所を拡大しています。
金具は殆ど1本のビスで固定するようになっています。
という事は何らかの力が掛かるとこのビスを中心に回転する事になります。
経年の収縮をこの回転で緩和する目的があるのでしょうか。
この写真では
「吊り子金具」は残っていますが、
先の小学校の現場では
「吊り子金具」は外れている箇所もあります。
よく見ると瓦棒の内側の「通し吊り子」の箇所が
開いたり、緩んだりしているように観察されます。
一瞬の時間にどのような力が働いたのでしょうか。





先のO小学校の体育館は大阪湾の東側に位置していました。
次のM小学校は大阪湾の北東に位置するS市です。
両方の小学校の体育館屋根被害はインターネットで検索可能です。


           グーグル衛星写真


この小学校周辺の建物被害を偶然にも確認することができました。
風は青色矢印の方向から吹いたようです。
Ⓐ カラーベストを採用している5階建のマンション
  (屋根は無傷なように確認されますが。)
Ⓑ 和瓦使用の2階建住宅
  (1階と2階屋根棟部に被害があったようです。)


          
グーグル衛星写真


この体育館への風は南西から吹いた様です。
風は T市 体育館時と同じように南側グラウンド方面から
校舎と体育館の間を吹き抜けたのです。
少し離れた場所にカラーベストで葺かれたマンションがあります。
施工管理がしっかりしていたのか、
棟包板金も飛散していない様に確認されます。


      台風201821号屋根被害写真


そしてM小学校南側グランドの南東側道路から見ます。
2018
年の9月の台風時には稲が植えられた田んぼのようです。
2025
年現在は住宅が建ちこのような光景は確認出来ません。
当時はこの住宅にも南からの風が当たったようです。
風は更に飛び越えて後ろ側のマンションに至っています。
Ⓐ カラーベストを採用している5階建のマンション
Ⓑ 和瓦の棟が飛散した2階建住宅
ⓒ S市のM小学校の体育館の高さ比較を見て見ます。

       グーグル写真(ストリートビュー)


同じようにM小学校グランド西側外から、
Ⓐマンションとⓒ体育館の高さを比較した写真です。
今までの条件で高さ比較をしてみますと
Ⓐ カラーベストを採用している5階建のマンション
  (1518m
塔屋)
Ⓑ 和瓦の棟が飛散した2階建住宅
  (48m ・ブルーシートで覆っている)
ⓒ S市のM小学校の体育館の高さ比較を見て見ます。
  (68m 軒先から半円形 R屋根頂部)


       グーグル写真(ストリートビュー)


このように各種屋根材の施工実績から経年変化や施工条件を紐解いて、
台風や地震等自然災害に対応するエネルギーの比較をするのも興味がそそられる事です。

もう少し、R屋根の体育館を探ってみましょう。

ありがとうございました。